進学情報サイト「
専門学校ナビ」と連携して全国専修学校各種学校総連合会の福田益和会長にインタビューさせていただきました。
全国専修学校各種学校総連合会 福田益和会長 特別インタビュー
全国専修学校各種学校総連合会 福田益和 会長
学校法人福田学園 理事長 (兼大阪保健医療大学学長)
福田 益和(ふくだ ますかず)
大阪保健医療大学、大阪リハビリテーション専門学校、大阪工業技術専門学校の3校を擁する学校法人福田学園理事長(兼大阪保健医療大学学長)。平成30年全国専修学校各種学校総連合会会長に就任。令和2年私立学校審議会委員としての功労が顕著な者として、文部科学大臣より表彰。
「修学支援新制度」の反響
令和2年度から実施されている高等教育の修学支援新制度は、高校生にとっても保護者にとってもありがたい制度だと思います。始まって間もないので、3年程経ってデータが出揃ってこないと全体としてのことは言えないかもしれませんが、我々専門学校としてもありがたいと考えています。
この制度に関わらず文科省や地方行政には色々な場面でお願いしていますが、大学と専門学校では財政的支援に差異があるのです。専門学校は制度が創設されて45年ほどですが、大学は長い歴史がありますので、差異があるのは仕方ない場合もあります。しかし、同じ日本人の学生であるにもかかわらず、大学と専門学校で格差があるのをなんとか公平にしてほしいと常々お願いしていました。そういう背景を考えると、給付型奨学金と授業料減免によるこの制度は、差異を減らす一歩と言っても良いと思っています。
本学園(学校法人 福田学園)においては、新型コロナウイルス感染症が流行る前は4月の入学式の際に保護者向けにオリエンテーションを開催したり、半期に1回保護者会を行ったりしていましたが、現在は保護者会を開催できていないので、この制度に関する保護者の反響は何とも言えません。
この1年弱のなかで、残念ながら対象者から中途退学者も出ているのも現状です。
文科省の調査ではコロナ禍で全般的に中途退学者は例年よりも減少しています。学生に対する国の支援策が奏功しているのでしょう。この制度に関する専門学校全体としての検証は、今後、成績の分布など様々な角度から見ていく必要があります。そのエビデンスを得るには一定の時間が必要でしょう。3年毎に見直すという振り返りの時期もあるので、その頃には高校の現場でも支援制度が熟知されているはずです。産業界にとっても、コロナにより打撃を受けている業界や、人手が足りない業界などがあるでしょうから、様々な業界と人材育成でつながりのある専門学校がこの制度の対象となっていることには、大きな意義があります。
実践的専門教育をコロナ禍でどう推進するか、オンライン授業への対応など
本学園でも、オンライン授業は初めのうちは大変でした。やっていくうちに段々と工夫をするようになりましたが、実技や実習においてはオンラインでは実施できないことが多かったです。たとえば、教員や保育士は実習に行かなければ単位が取れません。医療系でも実習は相当数あり、3、4年間で900~1100時間くらい病院や各施設で行います。しかし、実習先は受け入れが難しい状態なので、国家資格を所管する省庁は、今回特例で臨地実務実習等については同等の教育効果を前提として、学内での実習でも致し方ないということで認めました。
オンライン授業については、ITに長けた先生もアナログを好む先生もいますので、恐らく様々なところで温度差はあったと思います。こういう状況ではやらざるを得ないのですが、学校によっても学科によってもスタートはばらばらでした。本学園についていえば、工業系の学科は予習復習で以前からオンデマンドの教材を使っていたので、Zoom(オンラインミーティングアプリ)によるライブ配信授業の教員研修を行って、オンライン授業に素早く切り替えることができました。その他の学科では、補助教材としてオンライン教材も使ってはいたのですが、対応は少し遅くなりました。学生については、インターネットの環境調査や整備から始めました。教員も今までそういった取組みがなかったものですから、進めていくうちに良い面も悪い面も理解していきました。調理分野を例に出すと、教室では学生の立位置によって手元まで細かく見えないこともありますが、オンラインであれば定点カメラとあわせて助手がいれば手元までしっかりと写すことができ、そのまま残しておくことで反復・復習にも使えます。一方で気の毒なのは、学生が友人と会えないことです。食事を共にしたり、学んだりして仲を深めていくわけですから。そういったことで、良いこともありますし、悪いところもあります。
本学園ではオンライン授業を始めるにあたって、文科省が先進的な学校の事例をもとに、オンライン授業の取組みの注意点や工夫など、教育分野ごとの動画を作成していたので、参考にしました。
専門学校教育の特長の一つはきめ細かな指導であり、充実した実習や演習等でもあります。今後は、オンライン授業と対面授業を有効に組み合わせて、学生の学習環境を整えていくことになると思います。
地方活性化の役割など
地方の人口減少は顕著で、生産人口も減っています。地方でもそれぞれ事情は異なりますが、よく言われるのは、都会に進学して地元に戻らずそのまま就職してしまう等ということです。全ての都道府県でデータを公表しているわけではありませんが、専門学校を卒業してそのまま地元に就職するのは大体7割前後で、大学の場合は5割未満といったところです。そういう点も踏まえて、人口問題や産業構造などを考えると、人口が少ない所ほど厳しい現状ですので、やはり専門学校は地元密着型であるべきです。
地域をどのように活性化していくかということは、まず行政の動きが肝心だと思います。もちろん我々も高校や商工会議所などとコンソーシアムを作るなどして、良い事例を生み出せるよう努めています。因みに、こういったことは機動力を必要としますので、大学よりも専門学校の方が向いています。ある程度固まれば、国や地方公共団体の施策とマッチングさせて、良い成果を他の地域にも広げていきたいと考えています。
社会人、留学生の受入れなど
業種の転換や求められる人材などについての情報を得ることは重要ですが、今後18歳人口が減る中で情報不足というのは課題になります。たとえば、政府はSociety5.0に向け数年前から具体的施策を打ち出してきましたが、コロナ禍により否応なく対応が迫られています。必要な人材の育成を進めなければなりません。そこにも専門学校の役割があります。
少々話は飛びますが、留学生中心の学校もありまして、今後2,~3年は今までのように留学生を受け入れることは厳しいと見ています。大学の場合、母国の日本語教育機関からダイレクトで日本の大学に入学する方が多いのですが、専門学校の場合は海外における制度の認知不足という面が大きく、日本の日本語学校を通して入学する方が圧倒的に多いです。いずれにしろコロナにより人の移動が制限される中、留学生が減少するのは見えています。そうなると、大学既卒者や社会人のニーズにも対応する科目設定をしていかなければいけません。
本学園の場合、既卒者の割合についていえば、リハビリテーションの夜間部では90%で、他の医療系でも半分ほど、工業系だと約40%です。留学生は学年で15人です。高校卒業者はもちろんですが、これからは大学既卒者、社会人、留学生の受入れも含め、バランスを考えながら対応しなければなりません。とくにコロナ禍で雇用環境が悪化しています。専門学校の職業教育が貢献できるところは、今後ますます大きくなるのではないかと思います。
高校生、保護者、先生にメッセージ
高校とひとくくりに言っても、大学進学者が多い学校や就職比率が高い学校など色々ありますね。昔から「大学の進学率」というものに重きを置かれることが多いですが、進学=4年制大学とは限りませんので、短大・専門学校を加味して見ていただきたいと思っています。
自分のやりたいことがわからない大部分の人は、“入る”ことを目的として大学進学を選びます。しかし、どこへ入るかではなく、出てからのことを目的として入学を考えていただきたいと思います。昔から「良い高校へ入るために…」「良い大学に入って…」「良い会社に就職して…」と“入る”ことを目的にしがちなのですが、これは日本独特の考えで他国は“出る”ことに重きを置いています。
まず目的を考えなければなりませんが、高校1、2年生にそれを言っても恐らく難しいので、保護者や学校の先生が目的というものを色々見せてあげる必要があります。専門学校によっても分野が異なりますし、興味関心に違いもあるでしょう。実際の学力には直接関係ない感性が優れていたり、人の役に立ちたいと考えていたり、色々な人がいますから。
日本には200以上の資格と400以上の仕事があるそうです。よく知らない分野だと本などではリアリティーがありませんので、具体的な仕事が見える専門学校のオープンキャンパスに参加するのがオススメです。授業として学校を巡るツアーなども良いと思います。オープンキャンパスに行くと、年の近い在校生や参加者もいますので、印象も違ってきます。高校1年生のうちから参加すると2年、3年にあがるにしたがって目的というものが見えてくるでしょう。新型コロナの影響で実際に専門学校に行ける機会が少なくなってはいますが、オンラインのイベントなども活用してください。すぐ先の進路ではなく将来の目的を見据えて、保護者の方や先生方にはきっかけづくりをお手伝いいただきたいと思います。